白玉は蜜豆にじゃれついた。それを、面倒臭そうにいなしている蜜豆も嬉しそうだ。由乃は糠漬けを取り出し綺麗に洗う。少量を今日の食事の分として取っておくと、残りを白玉と蜜豆に振舞った。ゴリゴリ、バクバクと豪快な音を響かせる神使たちは、あっという間に糠漬けを平らげてしまった。幸せそうに体を横たえる白玉の側で、前足で食後の顔を綺麗に整える蜜豆。彼らの満足そうな表情を見て、由乃も嬉しくなった。

「しかし、由乃よ」

 毛繕いが終わった蜜豆が問いかけてきた。 

「はい? なんですか、蜜豆様」
「お主のいた蜷川家は……いや、よい。なんでもない、忘れよ」
「は、はあ……」

 思わせぶりな言動を残し、蜜豆はスッと厨房からいなくなった。なにを言いたかったのだろう、と考えを巡らせたが、すぐに止めた。由乃のいなくなったあとの蜷川家がどうなったか……それを想像するのが恐ろしかったのだ。響が由乃の手を引いて、部屋を出る瞬間の応接間は、地獄のようだった。それが、今も続いているのだとしたら……。
 背筋に寒気が走った。
(忘れよう。蜜豆様の言う通りに……)
 由乃は、神使たちの食器を片付けると、鳴と奏の朝餉の支度に、食堂へと向かった。