由乃と厳島はしばらく仕事の話をしながら彼らを待った。すると、食堂の時計がちょうど六時の鐘を鳴らした瞬間、蜜豆と白玉がいきなり姿を現した。白玉の背には、蓋付きの樽が括り付けられている。括っている紐は、ヨネがいつも使っていた手ぬぐいの模様に似ていた。

「帰ったぞえ。これで間違いないな?」

 白玉の頭に乗っていた蜜豆が、ぴょんと飛び降りながら言った。厳島が樽を白玉から降ろすと、由乃が確認をする。中身は由乃の糠床に間違いなかった。

「間違いありません! あの、もしかして、ヨネさんに会いましたか?」
「ヨネ? おお、えびす顔の気のいい老婆じゃな。会ったぞえ。由乃の匂いを辿って行くと、ヨネとやらの元についてのう。最初は腰を抜かしていたが、事情を説明すると快く糠床を渡してくれたのじゃ」
「そうですか……よかった、ヨネさん、元気だったんだ」

 フッと気が緩み、泣きそうになった。昨日、お別れを言えずにここに来てしまったことを、少し後悔していた。もう二度と会えないのではと、気落ちもしていた。しかし、蜜豆と白玉が糠床を取りに行ってくれたことにより、離れていても繋がっている、そう思えたのだ。

「蜜豆様、白玉様、本当にありがとうございました! お礼に、糠漬けを好きなだけ食べて下さい! なくなってもどんどん作りますので遠慮なくどうぞ」
「ひゃっほう! やったぜ! 嬉しいなあ、蜜豆よ!」