くねらせた尻尾を由乃の足に絡みつかせ、漬物を強請る蜜豆。しかし、由乃の表情は曇った。糠床は蜷川家に置いてきた。遠く離れた多聞家では、取りに行くことも出来ない。また新しく糠床を作ることは可能だけど、あれと同じものが出来るとは限らないのだ。
「うん? 浮かぬ顔じゃな。どうした?」
由乃は、蜜豆に糠床の話をした。すると蜜豆は、事も無げに言ったのだ。
「ふむ。では、取ってこようかの?」
「えっ? 取りにって……そんなことが出来るのですか?」
「出来るぞよ。我と「対をなすもの」は鼻が利くのじゃ。糠床の匂いを嗅ぎ、お主の実家を見付けるなど造作もない。と、噂をすれば起きてきおったわ」
蜜豆の言葉が終わる前に、開いたままの厨房の扉から、白く大きな犬がゆっくりと入ってきた。たれ目で眠そうな顔をした犬は、鼻をくんくんさせながら厨房を見回し低い声で言った。
「お、蜜豆! 腹減った、飯くれ」
「お前、食い物にしか興味がないのか! まったく……ほれ、昨日来た使用人、とても旨い飯を作るのじゃ! 由乃、こいつにも飯をやってくれんかの」
「ええ、わかりました。ちょっとお待ち下さいね」
由乃は蜜豆に出したものと同じ朝餉を用意した。食べやすいようにお盆のまま床に置くと、白い犬は幸せそうな表情をしてがっついた。ばくばくと休むことなく食べ続けていた犬は、やがて全てを平らげるとぶんぶんと尻尾を振り回した。
「旨い、旨い! 厳島の飯とは天と地ほどの差があるぞ!」
さらっと酷いことを言う白い犬。厳島はピクリと片眉を上げたが、特に反論しなかった。おそらく言っても無駄だと思ったのだろう。
「うん? 浮かぬ顔じゃな。どうした?」
由乃は、蜜豆に糠床の話をした。すると蜜豆は、事も無げに言ったのだ。
「ふむ。では、取ってこようかの?」
「えっ? 取りにって……そんなことが出来るのですか?」
「出来るぞよ。我と「対をなすもの」は鼻が利くのじゃ。糠床の匂いを嗅ぎ、お主の実家を見付けるなど造作もない。と、噂をすれば起きてきおったわ」
蜜豆の言葉が終わる前に、開いたままの厨房の扉から、白く大きな犬がゆっくりと入ってきた。たれ目で眠そうな顔をした犬は、鼻をくんくんさせながら厨房を見回し低い声で言った。
「お、蜜豆! 腹減った、飯くれ」
「お前、食い物にしか興味がないのか! まったく……ほれ、昨日来た使用人、とても旨い飯を作るのじゃ! 由乃、こいつにも飯をやってくれんかの」
「ええ、わかりました。ちょっとお待ち下さいね」
由乃は蜜豆に出したものと同じ朝餉を用意した。食べやすいようにお盆のまま床に置くと、白い犬は幸せそうな表情をしてがっついた。ばくばくと休むことなく食べ続けていた犬は、やがて全てを平らげるとぶんぶんと尻尾を振り回した。
「旨い、旨い! 厳島の飯とは天と地ほどの差があるぞ!」
さらっと酷いことを言う白い犬。厳島はピクリと片眉を上げたが、特に反論しなかった。おそらく言っても無駄だと思ったのだろう。