猫が好きそうなものを器に用意すると床に置く。猫は興味深そうに近付いて、クンクンと匂いを嗅ぐと、満足げに食べ始めた。
「美味しい?」
当たり前だが返事はない。しかし、一心不乱に食べ続けることがその答えだと、由乃は嬉しくなった。
「由乃さん、進捗状況はどうですか? おや! 蜜豆様! 姿を現すなんて珍しい。いったいどういう風の吹きまわしですか?」
厨房に入るなり、厳島は三毛猫に向かって捲し立てた。由乃の前にいた猫は、一瞬顔を上げたが、その後、何事もなかったように食事を続けた。
やはり、多聞家の飼い猫だったのだ。しかも「様」付けで呼ばれているのだから、きっと響が可愛がっているのだろうと、勝手に想像した。
「ふふ。蜜豆様というのですか。可愛い名前ですね」
話しかけながら体を撫でる。朝餉を綺麗に平らげた蜜豆は、顔を上げて厳島を見、それから由乃を見た。
「娘よ、美味であったぞえ! 厳島のクッソ不味い飯とは比べ物にならん。我は満足じゃ!」
(え? 今……猫が、喋った?)
由乃は目が零れそうなくらい驚いた。猫から女性の艶やかな声がしたのだ。しかし、その物言いは高圧的で老人臭い。
「酷い言いようですな。私なりに頑張っていたのですが」
「お主に料理は向いていないのだ。この娘に任せておくがよい。おや? どうした娘。変な顔をしおって……ああ、そうよの。猫が喋るのが珍しくて呆けたのだな。まあ、正確には猫ではないのだが。我は鬼神の神使、通名は「蜜豆(みつまめ)」という。よろしくな」
「神使様……ああ、そうなのですね。驚いてしまい、申し訳ございませんでした。私、蜷川由乃と申します」
「美味しい?」
当たり前だが返事はない。しかし、一心不乱に食べ続けることがその答えだと、由乃は嬉しくなった。
「由乃さん、進捗状況はどうですか? おや! 蜜豆様! 姿を現すなんて珍しい。いったいどういう風の吹きまわしですか?」
厨房に入るなり、厳島は三毛猫に向かって捲し立てた。由乃の前にいた猫は、一瞬顔を上げたが、その後、何事もなかったように食事を続けた。
やはり、多聞家の飼い猫だったのだ。しかも「様」付けで呼ばれているのだから、きっと響が可愛がっているのだろうと、勝手に想像した。
「ふふ。蜜豆様というのですか。可愛い名前ですね」
話しかけながら体を撫でる。朝餉を綺麗に平らげた蜜豆は、顔を上げて厳島を見、それから由乃を見た。
「娘よ、美味であったぞえ! 厳島のクッソ不味い飯とは比べ物にならん。我は満足じゃ!」
(え? 今……猫が、喋った?)
由乃は目が零れそうなくらい驚いた。猫から女性の艶やかな声がしたのだ。しかし、その物言いは高圧的で老人臭い。
「酷い言いようですな。私なりに頑張っていたのですが」
「お主に料理は向いていないのだ。この娘に任せておくがよい。おや? どうした娘。変な顔をしおって……ああ、そうよの。猫が喋るのが珍しくて呆けたのだな。まあ、正確には猫ではないのだが。我は鬼神の神使、通名は「蜜豆(みつまめ)」という。よろしくな」
「神使様……ああ、そうなのですね。驚いてしまい、申し訳ございませんでした。私、蜷川由乃と申します」