初雪が、降ってきた。
 低い鼠色の空から、ひらひら、きらきら。
 地面に落ちては消えて行く。凍える手の甲で救い上げると、あかぎれに少し滲みた。
 ああ、今年もこの季節がやって来た。父と母が馬車の事故で他界した三年前の冬も、最初はこんな天気だったっけ……と、蜷川由乃は白い息を吐いた。
 もう二度と戻らない幸せな日々を思いながら、現実を見て寒さに震える。住み慣れた日本家屋の立派な屋敷には、すでに由乃の部屋はない。元は家畜小屋として使用していた離れが、今は彼女の部屋である。扉の建付けが悪く、北風が吹くと恐ろしく寒い。雪が降る日などは、寝具の周りまで凍るほど。
 その軒先に佇んでいると、屋敷から、いとこの華絵の金切り声が聞こえた。由乃の名前を連呼し、随分と怒っているようだ。華絵は由乃よりひとつ上の十八歳。背が高く美人で、勝気な女である。対する由乃はか細く白く、折れそうなくらい細身だ。しかし、泥の中に凛と咲く蓮の花の如く、なかなかに芯は強く頑固であった。
 由乃は、冷たくなった手を擦りながら、急いで声のする居間へと向かう。