ひとり厨房に残った由乃は、周りを見て食材を確かめた。野菜もあるし、卵もある。出汁を取るための鰹節を確認すると、料理に取り掛かった。まず、基本の出汁を取り、だし巻き卵を作る。厳島の作った目玉焼きは、あとで自分が食べることにした。また水分量を間違えてねっとりとしてしまったご飯は、出汁を加えてちゃんとしたお粥にする。それだけでは味気ないので、出汁がらの鰹節と、塩昆布、梅干を付け合わせにした。最後に、旬の大根を使った味噌汁を作り、青菜のお浸しを添えて出来上がりである。
(よし! これでなんとか形は整えられたんじゃないかしら。でも……欲を言うなら、お粥に糠漬けを合わせたかったわ)
蜷川家を去る時、由乃は糠床を置いて来てしまっていた。驚愕のあまり、すっかり忘れてしまっていたのだ。ヨネが面倒を見てくれているとは思ったが、せっかく作った漬物たちを、食べられなくて残念に思っていた。
朝餉をいつでも出せる状態にすると、由乃は厳島に報告しに行くために厨房の扉を開けた。すると、小さく開いた隙間から、するりとなにかが入り込んできた。
「あら? え? 猫?」
それは美しい毛並みの三毛猫である。長い尻尾をゆらゆらと、貫禄たっぷりに歩く姿は、迷い込んできた野良猫にはとても見えない。首元に赤いリボンを付けているのを見ても、多聞家の飼い猫に間違いないと思った。
「お腹が空いたの?」
由乃が問いかけると、三毛猫は足元に擦り寄り「にやー」と返事をした。
(猫ってなにが好きなのかしら。お粥とか食べる? 味の濃いものはよくない気がするけど)
(よし! これでなんとか形は整えられたんじゃないかしら。でも……欲を言うなら、お粥に糠漬けを合わせたかったわ)
蜷川家を去る時、由乃は糠床を置いて来てしまっていた。驚愕のあまり、すっかり忘れてしまっていたのだ。ヨネが面倒を見てくれているとは思ったが、せっかく作った漬物たちを、食べられなくて残念に思っていた。
朝餉をいつでも出せる状態にすると、由乃は厳島に報告しに行くために厨房の扉を開けた。すると、小さく開いた隙間から、するりとなにかが入り込んできた。
「あら? え? 猫?」
それは美しい毛並みの三毛猫である。長い尻尾をゆらゆらと、貫禄たっぷりに歩く姿は、迷い込んできた野良猫にはとても見えない。首元に赤いリボンを付けているのを見ても、多聞家の飼い猫に間違いないと思った。
「お腹が空いたの?」
由乃が問いかけると、三毛猫は足元に擦り寄り「にやー」と返事をした。
(猫ってなにが好きなのかしら。お粥とか食べる? 味の濃いものはよくない気がするけど)