戸惑うような由乃を見て、厳島は首を傾げる。画期的な瓦斯台を使って、最速で朝餉を仕上げた厳島のことを、由乃は素直に凄いと思った。しかし……出来上がった朝餉が、あまり美味しそうには見えなかったのだ。ご飯は火力の調整に失敗したのか、水分が多かったのか、中途半端な「お粥」のようで、副菜は固い目玉焼と梅干のみ。素材の美味しさを生かすのならそれも有りかもしれないが、大財閥の朝餉にしては、あまりにも少な過ぎる気がした。
 でも、それを指摘するのも、超新参者の由乃には荷が重い。目を泳がせていると、厳島が言った。

「……ああ、わかりました。料理がお粗末なのでしょう?」
「えっ! いいえ、そんなことは……」
「下手なことはわかっているのです。私、他はなんでも完璧にこなすのですが、どうにも料理だけは才能がなく……食事など腹に入ればいいと思っているからですかね」
(なんでもいいって……厳島さんって変わっているわ。個性的というかなんというか)
 愉快になった由乃は、笑いを押し殺しながら厳島に提案した。

「では、私が少し手を加えてもよろしいですか?」
「ええ、もちろん! その間に私は別の仕事が出来ますから、助かります」

 そう言って厳島は去って行った。