「響様、由乃の準備が出来たみたいよ?」
「すごく綺麗だったから、びっくりしないでよ、響様」

 鳴と奏は興奮状態だ。由乃は今、ヨネに着付けをしてもらっている。昨日の時点で、着物はちゃんと届いていた。しかし、帯のみ、念入りな『修復』が必要だったため、多聞家に届くのが遅れたのだ。

「そうか」
「そうか……だなんて、本当は楽しみで堪らないのに。素直じゃないなあ、中佐は」

 からかうように蘇芳が煽る。

「うるさいな。確かに、楽しみではある。由乃の晴れ着姿は初めて見るのだし……」

 話の途中で響は黙り込む。それには理由があった。屋敷から出てきた、天女のように美しい由乃に釘付けになったのだ。ヨネと厳島に手を引かれ、蜜豆と白玉を両脇に従え、真紅の振袖を纏った由乃は、この世のものとも思えぬほどに神々しかったのだ。
 周囲からも感嘆の声が上がっている。特に蘇芳をはじめ、年頃の男連中は由乃から視線を逸らそうとしない。響は心の中で舌打ちした。美しい由乃を眺めていいのは自分だけだ、と嫉妬したからだ。しかし、そんな胸中を露程も見せず、響は由乃に駆け寄った。

「由乃。とても、美しいよ」
「えっ、あ、あの、ありがとうございます」

 由乃の頬がほんのりと朱に染まる。その可愛らしい様子に、響の気分も高揚した。

「それと、この帯……華絵さんに捨てられたものを、探し出し修復までして下さるなんて、感謝してもしきれません。まさか、この帯を結んで、鬼神様の横に立つ日が来るなんて……父が生きていたら驚いたことでしょう」
「見せたかったな」
「はい。でも、きっと、彼岸で母と喜んでいると思います」