「お前の正体、馬鬼(うまおに)だったか。なるほど、それで……」
「なるほど、とはなんだ!」

 冷静に分析している響にイライラしつつ、馬鬼が尋ねる。由乃も同じような疑問を持ち、響の回答を待った。

「すべてが馬に関わる事件だった。蜷川夫妻の事故も、帝都の暴走馬車も……馬鬼のお前ならば、馬を操るのはお手の物だろう? 夫妻の事故は細工など必要なかっただろうし、帝都では華絵や佐伯の由乃に対する復讐心を煽り、犯罪組織の影に隠れ、力を行使する……卑怯極まりないな」
「なんとでもいうがいい。だがこれは、全て久子が望んだのだからな。自身を蔑み暴力を振るう夫と、その夫が一途に想う女の死。それから、自分を忌み嫌う娘へ報復……他にもなにかあった気がするが……忘れたね。久子の恨みは根深く、果てしなく暗い。怖い女だよ」
「勝手なことを言わないで! 久子叔母様は悲しかっただけ……悲しくて辛くて、誰かに助けて欲しかっただけ……悪鬼がとり憑かなければ、救いの道はあったはずです!」

 由乃は叫んだ。どうしようもなく怒りが込み上げたのだ。

「あんた、前の本家の娘だろ? 久子に両親を殺されたってのに、お人好しかよ。まあ、どうでもいいがな。ワシは、ここで鬼神と一戦交えて、蓄えた力を試めそうと思っているだけなんでね」
「なら、ちょうどいい。馬鬼、お前を消滅させて……終いだ」

 響が瞬時に鬼神化すると、羅刹と夜叉も臨戦態勢になる。羅刹は由乃の壁になり、夜叉は速さを生かして特攻を開始、馬鬼に向かって鋭い爪を振り上げた。馬鬼は一撃目をひらりと避け、得意げな顔をする。しかし、直後に二撃目を腹に叩き込まれ、うっと呻いた。