「ここか」
「はい……久子叔母様は中にい……」

 そこまで言いかけた時、突然、部屋の扉が開いた。いや、開いたというよりは「吹き飛んだ」が正しい。危うく直撃するところだった由乃だが、目の前に出来た大きな壁が彼女を守った。

「ご無事ですか? 響様、由乃?」
「無事だ、羅刹。由乃にも怪我はない」
「ありがとうございます。白玉様……いえ、羅刹様」

 由乃は顔を上げて礼を言った。部屋に背を向けるように立っている白玉(羅刹)は、六尺以上ある上背を窮屈そうに折り曲げている。響と由乃を守るために、真の姿になったのだ。般若の面のような顔に、頭の両側には下向きの大きな角が二本。屈強な身体に白い衣を纏っている大鬼だ。
 羅刹は由乃を不思議そうに見た。真の姿を見せたことはないはずである。それなのに、由乃は驚かず、騒ぎもせず、平然と礼を言ったのだ。華絵と佐伯は狂ったように叫び怯え、我先にと醜い逃亡を図った。真逆の反応を示した由乃に、羅刹は深い畏敬の念を抱く。由乃は我が主鬼神多聞に相応しいと。
 その考えを頭の隅に置き、羅刹はくるりと体を反転し、背を屈めて部屋に入った。そして、一応の安全を確認すると、響と由乃を招き入れた。
 久子の部屋は二部屋が繋がっている仕様になっている。居間と寝室があって、部屋は唐紙障子の扉で仕切られていた。踏み込んだ居間には誰もおらず、必然的に全員が寝室のほうに目を向ける。すると、不気味な赤い光が灯っているのが見えた。