由乃は興奮して言った。蜜豆と白玉が神使になった経緯は厳島から聞いている。しかし、当事者から語られる物語はまた一味違う。由乃が話に食いついたので、響も神使たちも、嬉しそうに頷いた。
 やがて、由乃は見覚えのある門扉の前に立つ。暗くて全貌は見えないが、ランプに照らされた部分だけでも、ここがどこかはわかる。懐かしい本家、家族と一緒に十四年過ごし、辛い三年間を過ごした場所だ。

「由乃、心の準備はいいか、入るぞ?」
「はい。いつでも、準備万端です」
「蜜豆、白玉、由乃を全力で守れ」
「御意」

 蜜豆と白玉の頼もしい声を聞きながら、響を先頭に本宅に足を踏み入れる。玄関に着くと、扉には鍵が掛かっていた。蜜豆が一瞬で中に入り込み、鍵を開けると、湿った空気と淀んだ気配が鼻をつく。気配を感じ取る能力が低い由乃でさえわかるのだから、よほど、大悪鬼の力が増しているのだろう。

「由乃、久子の部屋を知っているな?」
「二階の一番奥の部屋……両親が使っていた部屋です」
「……案内してくれ」
「はい」

 響は先頭に立ち、ランプで前方を照らす。そして、由乃の手を握ると一緒に歩き出した。生まれ育った生家は、もうすでに、人の営みを感じない空虚なあばら家になり果てていた。ランプに照らされた廊下や壁は、廃墟のように崩れ落ち、見る影もない。家とは住むべき人を無くすと、斯くも荒んでしまうものかと、由乃は儚さを感じた。しかし、久子の部屋に近付くたび、そんな感傷も消えた。