列車が六花町に着いたのは午後三時。響たちは手配していた馬車に乗り込み、元治の別宅を目指した。成子の調査で元治の居場所はわかっている。そこまでの道順も、ちゃんと調べていた。賑わう町を抜けると、街道を道なりにゆき、そのまま山道に入る。民家もほとんどなくなり、やがて一件も見えなくなった。
(こんな寂れたところに、別宅が?)
 そう思っていると、ふいに馬車が止まった。

「由乃、ここで馬車を降りて歩く。大丈夫か?」
「……あ、道が狭くなるからですね。大丈夫です。山登りは得意なので」
「よし」

 馬車を待たせておいて、全員で細い山道を登っていく。先頭は白玉、次に蜜豆、そして由乃がいて最後尾が響。鉄壁の布陣で進むと、そこにこじんまりとした家があった。丸太造りの平屋で、大きさからして二部屋か三部屋、ふたりが暮らすのに最適な大きさだ。

「響様……」

 先頭を行く白玉が低く唸った。

「どうした? 悪鬼か?」
「いいえ。しかし、これは……駄目だ。由乃は家の中に入らないほうがいい」
「……わかった。由乃と蜜豆はここで待っていろ。頼んだぞ、蜜豆」
「任せられよ、響様」
「あ、あの、響様、白玉様、どうかお気を付けて……」

 頷いた響は、どこか緊張した白玉と共に、小さな民家に近付いて行く。そして、普通に玄関から入っていった。

「鍵はかかっていないようですね。いったい、なにがあるというのでしょう。元治叔父様は中にいるのでしょうか?」
「……由乃。白玉の鼻が利くというのは知っているな」
「ええ。では変な匂いを嗅ぎとって……あ……ま、さか……」
「気付いたか」

 蜜豆は不愉快とばかりに首を振る。白玉と響が由乃を中に入らせなかった理由、それは、元治が家の中で死亡している、とわかったから。嗅覚が鋭い白玉が嗅ぎとったのは、死臭だったのだ。華絵は元治が失踪したと言っていたが、実はここで亡くなっていたのだろう。

「……悪鬼の仕業でしょうか?」
「さあて……どうかのう。響様たちが帰るまで真相はわからぬな」

 重々しい空気の中、由乃と蜜豆は木々の隙間に腰掛けて待ち続けた。暮れかける森の中は、不気味な野鳥の鳴き声が響き不安を煽る。ブルっと震えた由乃を案じて、蜜豆は体を摺り寄せた。