「ん? うん! 旨い。揚げ物は冷めると途端に不味くなるが、これは食感が変わらず口当たりがいい」
「まあ、本当ですか? ありがとうございます。工場長の臼井さんや従業員のみなさんにも伝えておきますね。きっと喜びます」
「鳴姉さんの話によると、駅弁事業は相当収益が出ているらしいぞ。これは、また由乃が忙しくなるな!」
「鳴様のお役に立ててよかったです。もっともっと、頑張らないといけませんね」

 由乃は響に微笑んで見せた。
 これから悪鬼との戦いがあるというのに、車内は呑気にコロッケと駅弁の話題で盛り上がっている。そんな穏やかな雰囲気が、由乃にはありがたかった。華絵と佐伯が起こした事件は、帝都の人たちに多大なる迷惑を掛けてしまった。由乃がやったことではないが、縁戚として強く責任を感じている。そのせいで落ち込んでいる由乃を気遣い、蜜豆や白玉、そして響が、場を明るくしてくれているのだ。
 駅弁をあれこれ言いながら、みんなは盛り上がっている。由乃も話に加わるべく、豪快に箸を割ってコロッケを口に運んだ。