「ほほほっ、一等車両の特別個室に人など来ますまい? 響様は、由乃とのデェトを邪魔されて気が立っておるようじゃなー」
「は? そんなことは……いや、そうだ。だいたいお前たちは、鉄道を使わなくとも瞬間移動出来るだろ。それなのに、一緒に行くと言って由乃に縋ったじゃないか!」
「当然じゃっ! 由乃考案の旨い弁当が食える機会をみすみす逃してなるものか。なあ、白玉よ」

 蜜豆は白玉に尋ねた。しかし、白玉はもう駅弁に夢中で話を聞いていない。

「ああ! 響様が難癖をつけてきたおかげで、白玉に後れをとってしもうたわ! では、我も早速!」

 蜜豆はパクっとだし巻き卵を口に放り込んだ。いつも一番初めは卵から、と蜜豆は決めているのだ。

「ふふ。はい、響様もどうぞ。お茶も置いておきますね」
「ありがとう、由乃。全く、食い意地が張った神使を持つと頭が痛いよ」
 そう言って肩を竦め、響も駅弁の蓋を開けた。本日の日替わり駅弁は、クロケット。蓋を開けるとドンと大きなクロケットが存在感を放っていて、とても美味しそうだ。

「これは由乃の考案したクロケット弁当か。蘇芳から聞いたが、巷では訛ってクロケットをコロッケというらしいな?」
「ええ。どうやらそのようです。コロッケのほうが言いやすいからでしょうか?」
「そうだろうな」

 返答しながら、響はクロケット改めコロッケを口に運ぶ。多聞家ではベシャメルソースのクロケットは夕餉に出したことがある。だが、ジャガイモを使用したコロッケは出していない。   
 つまり、コロッケを響が口にするのは初めてなのだ。由乃はドキドキしながら、感想を待った。