三月下旬。
 奥州鉄道の窓から見る風景は、帝都に出てきた時よりも色づいて見えた。由乃は一等車両の特別個室で、響や神使たちと一緒に景色を堪能している。
 蜷川元治に会い全ての禍を絶つ、と言った響に、同行を申し出たのは由乃からだった。その申し出を響は快く了承した。蜷川家の問題に、当事者が立会うのは当然。それに、多聞家で待つよりも、一緒にいたほうが遥かに安全だと思っていたのだ。鬼神である響と、蜜豆と白玉。この三者が揃っていれば、大悪鬼ですら由乃に近付けはしない、という自信があった。

「そろそろお昼になさいますか?」

 朝、始発で出発して、もうすぐお昼が来る。由乃はさきほど車内販売で買った駅弁を袋から出した。それは自分が献立を考え、開発に携わった駅弁である。

「おお! いい考えじゃ!」
「オレも腹が空いた。食べよう食べよう」

 蜜豆はヒョイと由乃の膝に乗り、白玉はテーブルに前足を掛ける。ふたりの前に由乃がお弁当を広げると、響が眉を吊り上げた。

「おい、大きな声で喋るな! 誰かに見つかったら不審に思われるだろう? 今回は四倍の乗車賃を払い、無理を言っておまえたち(動物)を乗車させてもらっているんだ。少しは静かに出来ないのか!」