「ありがとう、由乃。真面目なお前にとっては悩ましい決断だったろうに……」
頭上で聞こえる響の声は、どことなく弾んでいた。だがそのあと、神妙な口調になる。
「ひとつ、お前に謝らなければならない。そのままで聞いてくれ……本家が乗っ取られ、お前は鬼神の嫁の資格がない、と思っているのだろう? それは間違いだ。名義上本家から外れたとしても、直系は由乃だ」
「え……?」
由乃は驚いて小さな声を出す。響は一拍置いてから、また話し出した。
「本家とは直系を指すのだ。敏いお前ならこの意味がわかるな? 蜷川徳佐は十六になったら言うつもりであったらしいが、その前に事故にあったため、由乃に言えなかった」
(ああ、そう、そうだったのね。お父様は私に言えずに……でも、これで悩みがひとつ消えたわ。お嫁様の資格がちゃんとあったのだから。あら、でも、どうして響様はこれを先に言わなかったの? 先に言って下されば、すぐに返事をしたのに……)
由乃は響から離れ、じっと上目遣いで見た。それを、どうとったのだろうか? 響は申し訳なさそうに呟いた。
「そんな目で見ないでくれ、悪かったと思っているのだ。俺は鬼神だからとか輔翼本家だとか、そんなこと関係なしに「愛している」と言って欲しかった。先に言えば、お前は簡単に返事をするだろう。そんな義務的なものじゃなく、もっと……なんていうか……ああ、言葉にならない!」
目の前でもどかしい様子を隠そうともしない響を、由乃は新鮮な気持ちで眺めていた。物事に動じない鬼神が、感情に振り回されている。自分と同じように悩み、愛を求める姿に、由乃は更に愛おしさを感じた。
そのせいか、由乃も大胆な行動に出る。響を愛おしく思うあまり、つい、自分から抱き締めてしまったのだ。一瞬体を強張らせた響だが、すぐに緊張は解け、由乃の背中に手を回す。
黙ったまま、お互いを確かめるように抱き合うふたりを、窓から差し込んだ朝日が柔らかく照らす。
それは、初めて愛を知るふたりを祝福するかのような、慈愛に満ちた光であった。
頭上で聞こえる響の声は、どことなく弾んでいた。だがそのあと、神妙な口調になる。
「ひとつ、お前に謝らなければならない。そのままで聞いてくれ……本家が乗っ取られ、お前は鬼神の嫁の資格がない、と思っているのだろう? それは間違いだ。名義上本家から外れたとしても、直系は由乃だ」
「え……?」
由乃は驚いて小さな声を出す。響は一拍置いてから、また話し出した。
「本家とは直系を指すのだ。敏いお前ならこの意味がわかるな? 蜷川徳佐は十六になったら言うつもりであったらしいが、その前に事故にあったため、由乃に言えなかった」
(ああ、そう、そうだったのね。お父様は私に言えずに……でも、これで悩みがひとつ消えたわ。お嫁様の資格がちゃんとあったのだから。あら、でも、どうして響様はこれを先に言わなかったの? 先に言って下されば、すぐに返事をしたのに……)
由乃は響から離れ、じっと上目遣いで見た。それを、どうとったのだろうか? 響は申し訳なさそうに呟いた。
「そんな目で見ないでくれ、悪かったと思っているのだ。俺は鬼神だからとか輔翼本家だとか、そんなこと関係なしに「愛している」と言って欲しかった。先に言えば、お前は簡単に返事をするだろう。そんな義務的なものじゃなく、もっと……なんていうか……ああ、言葉にならない!」
目の前でもどかしい様子を隠そうともしない響を、由乃は新鮮な気持ちで眺めていた。物事に動じない鬼神が、感情に振り回されている。自分と同じように悩み、愛を求める姿に、由乃は更に愛おしさを感じた。
そのせいか、由乃も大胆な行動に出る。響を愛おしく思うあまり、つい、自分から抱き締めてしまったのだ。一瞬体を強張らせた響だが、すぐに緊張は解け、由乃の背中に手を回す。
黙ったまま、お互いを確かめるように抱き合うふたりを、窓から差し込んだ朝日が柔らかく照らす。
それは、初めて愛を知るふたりを祝福するかのような、慈愛に満ちた光であった。