「なんで知っているのか、という顔だな。園山家の成子、彼女が蜷川家の実態や近況について調べてくれたのだ。お前が本家の娘ではないか、という仮説を立て、いろいろ情報を集めてくれてな。その調査に基づき、ヨネも交えて情報のすり合わせをした」

 呆然とした由乃を気遣いながら、響は続ける。

「辛かっただろう。いきなり両親を失い、続けざまに本家の乗っ取り。ひとりになったお前を気遣うでもなく、追い打ちをかけるなんて、輔翼の家にあるまじきこと……もっと早く俺が見付けていればと、後悔したよ」
『いいえ。響様は私を助けて下さいました。この多聞家で暮らしてもいいと仰ってくれました。感謝しています』
「感謝、か。感謝ではなく、俺は……うん……ええと」

 響は急に言葉に詰まる。いつもハキハキと自信たっぷりに話す響にしては珍しい、と由乃は思った。

『どうかなさいましたか?』
「いや……ああ、もう! 回りくどいのは苦手だ。だから単刀直入に言う」
『はい』
「愛している。俺はお前を嫁にしたい。異存はないか?」 

 惰性で『はい』と書きかけて、由乃は指を止める。響がなんと言ったのか、理解するまでにかなりの秒数を要した。目の前でピクリとも動かなくなった由乃を、響は身動ぎもせず見つめている。