「今となってはもうわからないのだが、華絵と佐伯はどうしてそこまでお前を憎んでいたのだろう」

 眉根を寄せる響に、由乃は筆談で回答する。

「……なんだと! そんなくだらないことで由乃を殺そうとしたのか?⁉ 信じられん!」
『華絵さんや佐伯さんの考えは、正直わかりかねます』
「ああ。悪鬼に干渉されていたとはいえ、それだけでああはなるまい。元々、性根が腐っていたのだろうな」
『悪鬼……? そうなのですか? 華絵さんたちはとり憑かれていたのですか?』

 問うと響は頷いた。

「どうやら大元の大悪鬼がいて、そいつが操っているらしい。来週末、退治しに行く予定だ」
『大悪鬼は、どこにいるのですか?』
「……お前の故郷だ」

 由乃は筆談の手を止め、響を凝視した。
(大悪鬼が故郷の本郷にいる? そんな恐ろしい存在が近くにいたの? 確かに直近の蜷川家は辛い思い出ばかりだけど……華絵さんの意地悪も命を奪うようなものじゃなかった。本当に?)

「状況的に見て、蜷川元治にとり憑いていると考えている。お前の両親の事故にも悪鬼が関わった可能性があり、その件で得をしたのは元治だからだ」
『あの事故……悪鬼が関わっていたのですか?』
 由乃は驚きつつも冷静に頭を働かせた。しかし、冷静になりすぎて、響の言葉の違和感に気付いてしまった。
(どうして響様が、両親の事故の件を詳しく知っているの? 私、簡単にしか話していないわ。それに、得をしたのが元治叔父様って。もしかして響様は……)