由乃が目を覚ましたのは、まだ薄暗い明け方だった。
(あのまま眠ってしまったのね。響様は帰っていらしたかしら)
 そう思い、ふと横を向いた由乃は絶句する。顔を向けたすぐ先に、響の顔があったのだ。
 危うく飛び起きそうになったが、なんとか気合で耐えた。しかし、心は激しく動揺していて収まる気配はまるでない。
 響は由乃のすぐ側で、添い寝をするかのように横になっており、吐息がかかるくらい近くにいる。
(ど、どうして隣に⁉ あ、いえ、違うわ。本来ならこの寝台は響様のもの。私が借りているだけであって、この状況はなにもおかしくない。おかしくないのだけれど……)
 などど、変な言い訳を考えていると、気配を感じたのか響が目を覚ました。

「……ん。悪い、由乃。起こしてしまったか?」

 けだるそうに目を開けた響は色気たっぷりに微笑んだ。由乃は冷静に、冷静にと、自分に言い聞かせつつ首を横に振る。激しい動揺が伝わりませんように、と願いながら。

「喉が渇かないか? 乾燥するのはよくないと橘が言っていたぞ。水を飲んだほうがいい」

 響は由乃の体を起こした。そして、水差しからグラスに水を注ぐと、笑顔で手渡してくれた。ちょうど喉が渇いていた由乃は、グラスを受け取ると遠慮なく飲み干す。常温の水は、喉に刺激を与えず、五臓六腑に染み渡っていく。由乃が水を飲み干すのを見て響が言った。

「華絵と佐伯の件、片付いたよ。どうなったか聞きたいか? いや、聞くべきだろう。あんなに酷い目に遭ったのだから」

 由乃は頷いた。華絵と佐伯に対して、確かに怒りはあった。でもなにより、血の繋がった一族の者として顛末を知りたい、それが自分の責任だと感じていたのだ。
 響は由乃の決意を感じ取っていた。だから、なにも隠さず、真実のみを淡々と連ねる。
 犯罪組織と結託して華絵と佐伯が行った数々の悪事や、その背景。それは由乃が華絵から聞いたものとほぼ変わりはなかった。ただ、そのあと、華絵と佐伯が辿った結末に関しては、想像もしていなかった。