響が自室に戻ると、由乃は眠っており、寝台側の椅子にはヨネがいた。

「お帰りなさいませ。響様」
「ああ、ヨネ。遅くまですまないな。家族も待っているだろうに」
「いいえ。由乃様が大変な時に側にいるのは、私の役目だと心得ております。成子様やみなさまも心配して待っておりましたが、夜も更けましたので私だけがここに……」
「そうか、ありがとう。由乃はヨネという味方がいて心強かったろうな」

 労うと、ヨネは「とんでもございません」と慌てた。響は、眠る由乃に近付き様子を確認する。健やかな寝息を立てる由乃は、ぐっすりと眠っているようだ。時折、喉の違和感からか呼吸の乱れはあるが、苦しさはないようだ。響は寝台に腰掛け、由乃の額にかかる髪の毛を掬う。
 そして、独り言のように言った。

「大変な目に遭ったというのに、由乃は怯えたりしないのだな。このように儚く細い身でありながら、凛として強く、輝いている」
「はい。由乃様は芯の強い方でございます。蜷川家で虐げられても、決して心折られず、生きておりました。私の自慢のお嬢様でございます」
「だろうな。お前は由乃が生まれた時から蜷川家にいたのか?」
「そうでございます。由乃様の母、美幸様が嫁いでいらした時から働いております」