「ちょっと仕事で出掛ける。ヨネを寄越すから、欲しいものがあれば彼女に言うといい。出来るだけ早く帰ってくるから……ゆっくり眠って体を休めろ」

 優しい言葉に、由乃は頷いて返す。響は由乃を気遣って、詳しい話を避けた。おそらく、先ほどの会話は、華絵と佐伯、その仲間である犯罪組織を捕まえたという報告だ。しかし、部屋で言うと、由乃が怯えるかと思い……。事の顛末を知りたいと思う気持ちもあった。しかし、今は響の優しさに甘えようと決めたのだ。
 鬼神化した響が蜜豆と部屋を去ると、由乃は横になり目を閉じた。そして、今日起こった出来事を思い返す。恐ろしい事件に巻き込まれたが、それによって思わぬ人に出逢えた。二度と逢えないと思っていた美幸に。美幸は相変わらず、凛としていて美しかった。その母の姿を脳裏に焼き付けながら、由乃は眠りに落ちていった。


 蜜豆と憲兵隊詰所に移動し、鬼神化を解いた響は、真っ直ぐ牢に向かう。そこには、人相の悪い男どもが大勢いた。

「これは……かなりの人数だな」

 溢れかえる悪党に辟易しながら言った。詰所には牢が三部屋あるが、その全てが犯罪組織の者で埋まっていたのだ。

「中佐。お疲れ様です。由乃さんは大丈夫ですか?」
「ああ、蘇芳、由乃は意識を取り戻した。喉の痛みだけで、問題はないようだ」
「そうですか! よかった」
「お前もご苦労だった。他の憲兵隊は皆、帰宅させたようだな。事件に関しての報告を聞こうか」
「はい。では移動しましょう。ここは煩すぎるので」

 響と蘇芳は、牢から移動し詰所の一室に移動し、蜜豆と白玉も続いた。