「待たせたな、由乃。こいつは医者の橘大輔だ。軍の医療施設で働いていて、俺と同じ年で若いが、結構優秀な男だ。さあ、診てやってくれ」
「ああ、わかった」

 由乃は、診察しやすいように体を起こそうとした。しかし、それを響が止める。

「起きるな、由乃。寝ていても診察は出来るだろう?」
「出来るがね……やれやれ、過保護が過ぎないか? まったく……噂は本当だったか」
「噂? なんのだ?」
「鬼の中佐殿の想い人の話さ」

 にやにやと意味深に笑う橘を、黙れと言わんばかりに睨む響。なんの話かわからず由乃は困惑したが、響の様子からふたりは気の置けない関係なのだと、少しほっこりとしていた。

「そんな話はあとだ。早く由乃を診察しろ。喉の痛みを直してくれ」
「はいはい」

 橘は由乃の脈や心音、喉をくまなく診察をする。結果、異状は喉のみで、他は正常だった。

「喉の痛みはしばらく続くかもしれないけど、すぐによくなるよ」
「あ、あり、が……」
「無理しなさんな。痛みを和らげる薬を処方しておくから、ゆっくり療養するといい。中佐殿が甲斐甲斐しく世話してくれるから問題はないだろう、な?」
「ふん。お前は一言多い。だが、助かった。こんな夜更けに呼び出せるのはお前くらいのものだからな」

 響は厳しい表情から一転、優しい笑みを浮かべた。