そこは河原だった。
 辺りには霧が立ち込め、薄暗く、どこか物悲しい。
(ここは……? どこ?)
 由乃は、裸足で河原の岸に佇んでいた。火に巻かれたと思ったのに、火傷の痕もなく、着物も綺麗で煤も付いていない。あまりのことに理解が出来ず、由乃は当てもなく岸を歩き始めた。
(とにかく歩いて移動しよう。そのうち、どこかに着くでしょう)
 しかし、歩けども歩けども、景色は変わらない。それどころか霧は更に濃くなり、闇も深くなった。由乃は立ち止まり、振り返る。後ろも闇、左右も、前も。真っ暗になり、歩けなくなった由乃は仕方なくその場に座り込んだ。
(いったい、どこなの? 私、廃工場にいて、華絵さんたちに捕らわれて、周りに火を付けられて……)
 そう思った途端、ある仮説が浮かんだ。河原、岸……。もしかして、ここは三途の川の岸ではないのか。自分はもう、死んでしまったのではないか、と。仮説が真実に変わるのに、そう時間はかからなかった。燃え上がる炎の中、由乃は死を覚悟した。あの状況からは到底助からないと思ったのだ。

「そうなのね……やはり、私は……」

 認識すると、今まで闇しかなかった景色が変わる。霧が晴れ、辺りが明るくなり、目の前に突然舟が現れた。その舟にはすでに五人が乗っており、頭巾で顔を隠した船頭が手招きしている。由乃は瞬時に舟があの世に行くものだと理解した。
(乗らなくてはならないのね)
 舟に向かい由乃は一歩踏み出す。しかし、誰かが彼女の腕を掴んで止めた。

「お待ちなさい」
「え?」

 振り向くと、そこには死んだはずの母美幸がいた。