横目で見ていた由乃はそこに至る経緯を知っていた。纏わりつく華絵を、鬼神は軽くいなしていた。しかし、嫌がっているのを理解しない華絵に、鬼神がなにかを言った。その一言で華絵が泣き喚いて暴れ出し、その無礼な態度に鬼神が怒った……という風に見えた。声は聞こえなかったので、正解かどうかはわからない。でも、大方そんなところだろうと思っていた。
「大変だ……」
呟くと佐伯は駆け出した。彼が加勢したところで状況はさほど変わらない、と、冷ややかに眺めていた由乃であるが、隣のヨネは違った。そう、華絵が鬼神に選ばれなければ、由乃に穏やかな生活はやってこないのだ。
「大変だわ……」
ヨネは佐伯と同じ言葉を口にしてしまったことを悔やんだが、今はそれどころではない。なんとかして、鬼神に華絵を選んでもらわなくては……。でも、どんなに頭を働かせても、いい考えは思い付かなかった。
鬼神は怒りの表情のまま、応接間を出てつかつかと玄関に向かって行く。それを青ざめた元治たちが追いかける。このままではまずい、と咄嗟に由乃と共に廊下に出たヨネは、焦ってうっかり盃を床に落としてしまった。
パリンと派手な音がして、値の張る盃が砕け散る。場の全員が由乃とヨネのほうを見、当然鬼神も足を止めた。一瞬の足止めには成功したが、その先の作戦はなく、仕方なくヨネは目を伏せる。すると、由乃がすっと前方に出た。まるで、自分が落としましたと言わんばかりの仕草にヨネは後悔した。自分の失態を守るべき主人にかぶせてしまうなんて、あってはならぬこと。そう思い名乗り出ようとすると、つかつかと鬼神が歩いてきたのだ。
「大変だ……」
呟くと佐伯は駆け出した。彼が加勢したところで状況はさほど変わらない、と、冷ややかに眺めていた由乃であるが、隣のヨネは違った。そう、華絵が鬼神に選ばれなければ、由乃に穏やかな生活はやってこないのだ。
「大変だわ……」
ヨネは佐伯と同じ言葉を口にしてしまったことを悔やんだが、今はそれどころではない。なんとかして、鬼神に華絵を選んでもらわなくては……。でも、どんなに頭を働かせても、いい考えは思い付かなかった。
鬼神は怒りの表情のまま、応接間を出てつかつかと玄関に向かって行く。それを青ざめた元治たちが追いかける。このままではまずい、と咄嗟に由乃と共に廊下に出たヨネは、焦ってうっかり盃を床に落としてしまった。
パリンと派手な音がして、値の張る盃が砕け散る。場の全員が由乃とヨネのほうを見、当然鬼神も足を止めた。一瞬の足止めには成功したが、その先の作戦はなく、仕方なくヨネは目を伏せる。すると、由乃がすっと前方に出た。まるで、自分が落としましたと言わんばかりの仕草にヨネは後悔した。自分の失態を守るべき主人にかぶせてしまうなんて、あってはならぬこと。そう思い名乗り出ようとすると、つかつかと鬼神が歩いてきたのだ。