神速で辿り着いた先は、廃工場のようだった。

「どこだ? 由乃はどこにいる?」
「響様、こちらから由乃の匂いが!」

 白玉は木造の建物へと駆け出した。……が、その建物からは焦げる匂いがする。

「燃えておる! 白玉、由乃はあの中か?」
「そうだ、あの中……あ、響様っ」

 白玉が言い終わるのを待たず、響は走り出し扉を蹴破って建物の中に飛び込んだ。
 中は火の海だ。
(これは……誰かが故意に燃やしたな! 火の回りが激し過ぎる。ガソリンによる放火だ)
 響は由乃を探して目を凝らす。すると、炎の中心になにか……いや誰かが座っている。いつも見ている紫の着物。紛れもなく由乃だ。しかし、彼女はぐったりと項垂れ、この熱さにも拘わらずピクリとも動かない。

「由乃⁉ くそっ! 炎よ、道を開けろ! 俺の行く手を遮るな」

 響が叫ぶと、火の壁が左右に分かれ、道を作り出す。迷うことなくその中を突き進み、響は由乃に駆け寄った。

「由乃! しっかりしろ!」

 椅子に体を縛られた由乃は意識がなかった。火災において怖いのは煙、火傷よりも先に死に至らしめるのは煙なのだ。おそらく、縛られていたため動けず、煙を大量に吸ったのだろう。周囲の様子を見るに、火を付けられてからそんなに時間は経っていない。響は由乃を縛る縄を解き抱き上げると、あとからやって来た蜜豆や白玉と外に避難した。

「響様! 由乃は……由乃は……」

 蜜豆の声が震えている。

「脈はある……大丈夫だ、きっと……大丈夫だ」

 響は自分に言い聞かせるように繰り返す。今すぐ由乃を抱えて、病院に駆け込みたい。だが、この状況を放ってはおけない。

「これは間違いなく、由乃に悪意を持つ者の仕業だ。白玉、建物内に残った匂いを追え。蜜豆は、蘇芳の元に行って伝えろ。憲兵隊を率いて、地元の消防団と一緒に、工場の消火をしろと。いいな!」
「承知」

 と白玉が言い、続けて蜜豆が言った。

「了解じゃ! そのあと白玉と合流し犯人の捕縛をしようぞ! 手加減はせぬが、よいですかな?」
「ほどほどにな。詳細を知っている者だけは残しておけ」