「由乃さんの帰りが遅いので、工場のほうに連絡を入れてみました。すると、四時くらいに工場を出たと……工場からここまでは約ニ十分。もしかしたら、どこかに寄り道をしている可能性もありますが……」
「由乃に限ってそれはないな」
「はい。あと、不審な点がもうひとつ。由乃さんを送っていった車夫が、弁当工場付近の空き家で、手足を縛られ猿轡を噛まされた状態で発見されたと、東寺屋の主人から連絡がありました」
「なにっ?」

 言うや否や、響は立ち上がる。遅いだけならさほど慌てはしない。しかし、由乃の身近にいた車夫が拘束されていたなら話は別。これは明らかにおかしい。由乃はなんらかの事件に巻き込まれたと考えたのだ。

「蜜豆! 白玉!」

 響が虚空に叫ぶと、空間が歪む。すると、一瞬で蜜豆と白玉が現れた。

「由乃の居場所がわかるか⁉」
「もちろんじゃ! なあ、白玉?」
「おう、蜜豆。どこにいても由乃の匂いはわかる!」

 ふたりは全身の毛を逆立て叫んだ。お気に入りの由乃が危険な目に遭っているかもしれない、そう思うと、怒りが込み上げたのだ。それは響も同じである。

「では、すぐに向かう!」

 キラキラと眩い光が辺りを包む。
 響は鬼神化し、蜜豆と白玉も本来の姿に戻る。しかし、それは成子や厳島の目には映らなかった。それほど、刹那の出来事だったのだ。