「先ほど工場から電話がありまして、ちょっとした問題があり、由乃様の帰りが少し遅れる、という話は聞いております。しかし……遅すぎますね。私、厳島さんに聞いて参ります」
「頼む。これ以上遅れるなら、俺が迎えに行ってもいい。暗くなると危ないからな」
ヨネは軽く頷くと、応接室をあとにした。その間に、響は成子から別の情報を聞く。娘の華絵は佐伯という男と一緒に家を出て、帝都に出てきているらしい。怪しげな輩とつるんでいるという話だ。また元治の追加情報もある。彼は幼い頃から兄徳佐に激しく嫉妬していた。長男というだけで、なにもかも優遇されていると思いこんでいたのだ。自分にはなにも与えられないと、嫉妬した元治は、自身の妻にそのイライラをぶつけていた。蹴ったり殴ったりは日常茶飯事。しかし、元来大人しい性格の妻久子は、なにも言わず黙って耐えていたという。
「最低だな」
「最低です。久子さんは、娘にも罵倒されていたらしいですわ。本当に、お可哀想」
成子は嫌悪の表情で大きなため息を吐いた。正しく真っ当に生きてきた輔翼本家の人間にとって、それは信じられない行為だからだ。実際家に行き、元治や華絵と直に接した響も、嫌な感じを受けた。真実を知った今なら、その嫌な感じの正体がなんだったのかがわかる。
応接室に一瞬の沈黙が訪れた。その直後、沈黙を打ち破るように扉が開いた。
「失礼します。響様」
「厳島? どうした?」
いつも冷静な厳島が、額に汗をかいている。
「頼む。これ以上遅れるなら、俺が迎えに行ってもいい。暗くなると危ないからな」
ヨネは軽く頷くと、応接室をあとにした。その間に、響は成子から別の情報を聞く。娘の華絵は佐伯という男と一緒に家を出て、帝都に出てきているらしい。怪しげな輩とつるんでいるという話だ。また元治の追加情報もある。彼は幼い頃から兄徳佐に激しく嫉妬していた。長男というだけで、なにもかも優遇されていると思いこんでいたのだ。自分にはなにも与えられないと、嫉妬した元治は、自身の妻にそのイライラをぶつけていた。蹴ったり殴ったりは日常茶飯事。しかし、元来大人しい性格の妻久子は、なにも言わず黙って耐えていたという。
「最低だな」
「最低です。久子さんは、娘にも罵倒されていたらしいですわ。本当に、お可哀想」
成子は嫌悪の表情で大きなため息を吐いた。正しく真っ当に生きてきた輔翼本家の人間にとって、それは信じられない行為だからだ。実際家に行き、元治や華絵と直に接した響も、嫌な感じを受けた。真実を知った今なら、その嫌な感じの正体がなんだったのかがわかる。
応接室に一瞬の沈黙が訪れた。その直後、沈黙を打ち破るように扉が開いた。
「失礼します。響様」
「厳島? どうした?」
いつも冷静な厳島が、額に汗をかいている。