都合よく乗っ取りが行われたので、もしかして、と思ったが、状況は事故だと指し示していた。しかし、世の中には説明のつかない現象を引き起こす悪鬼が存在する。悪鬼は人にとり憑き悪事を促す。また、より強い力の大悪鬼は、遠く離れた場所からでも害をなすことが可能だ。その昔、大暴れしていた夜叉や羅刹のような悪鬼なら、その程度わけもない。

「悪鬼の可能性も視野に入れ、蜷川元治を問い詰めよう。とり憑かれているなら、元治が濃厚だ」

 響が言うと、成子も同意する。

「そうですわね。赤の他人が蜷川夫妻を狙う利点がありませんもの。悪鬼の仕業であるならば、早めに対処したほうがよいと思います」
「ああ。ヨネ、元治はあの家にはもういないのだったか?」
「はい。詳しくは知りませんが、以前どこかの山中に別宅を買ったと話していた気がします。きっと今もそこで生活しているのではと……」
「どこかの山中か……地元の憲兵隊に命じて調べさせようか」

 すると、成子が得意げに言った。

「調べはもうついておりますわ」
「ぬかりがないな」
「ふふふ。わたし、何事も徹底的に調べないと気が済みませんの。将来は探偵社でも開こうかしら」

 成子は高らかに笑った。

「勇ましいことだ。しかし、探す手間が省けて助かった。由乃が帰ってきたらその話をして……遅いな、もう五時がくるぞ」
「あら、本当だわ。由乃さんがこの時間に帰らないなんてこと、あるの?」

 響と成子はヨネを見る。