「本当よ。だから、最初から蜷川華絵に資格はなかったの。でも由乃さんは、どうして自分が輔翼本家の娘だと言わなかったのかしら。言えば、響様が力になって下さるのに」
「由乃様は……私もですが『直系が本家そのもの』であることを知らなかったのです。徳佐様は十六になったら全てを伝えるつもりであると常々言っておりました。ご両親が亡くなった時、由乃様は十四歳。結局伝えきれないまま、この世を去ってしまったのです。しかし……たとえ知っていても、由乃様は図々しくなんとかしてくれと縋ったりはしないと、私は考えます」
「俺もそう思う。由乃は自分が不幸だからといって、誰かに頼るような娘ではない。与えられた運命から逃げようとはしないはずだ。芯の強い娘だからな」

 響はヨネの意見を強く肯定する。身の内に持つ一本の蓮の花。その花が見える響は、誰よりも由乃の心の強さと美しさを知っていたのだ。

「それはそうと。その馬車の事故、故意の可能性はないのか? この書類には、事故と書かれているが、ひょっとしたら蜷川元治が細工をしたのかもしれないぞ」
「わたしもその可能性に思い至って、詳しく調べてみましたの。当時の調べでは、馬車に細工のあとは見つからなかったそうです。念のためにと御者の男を探し出し状況を聞いてみたのですが」
「どうだったのだ?」
「馬車の事前の点検時にも不具合はなく、走行中もいたって普通だったそうです。しかし、崖の難所に差し掛かったところで、突然車輪が外れて制御不能に陥り、御者の男は台から振り落とされ、馬車はもろとも崖下へ……」