多聞邸、午後三時半。
 その日、会議が早く終わった響は、夕暮れ前に屋敷に帰宅した。久しぶりに中庭で由乃とお茶でもするか、と珍しく茶菓子を購入したが、彼女はいなかった。厳島によると由乃は午後から弁当工場に出掛けたという。仕方なく夕食まで書斎で調べものをしていると、響を訪ねて来客があった。

「突然押しかけて申し訳ありません。陸軍に問い合わせたら、今日はもう帰宅したと言われたものですから」

 茶封筒を膝に乗せ、応接室に座るのは園山成子。少し緊張した面持ちの彼女は、響が目の前に座ると静かに微笑んだ。

「構わないよ。で、俺に会いに来たということは、蜷川家の件だな。なにかわかったのか?」
「ええ。思った通り、大きな問題が隠れておりましたわ。それで、あの……今日由乃さんはいないのですか?」
「ん? ああ、ちょっと用があって外出している。由乃がいたほうがいいのか?」
「当人がいれば、より詳しく話が聞けるかと思ったのですが。留守なら仕方がありませんわね」