由乃とヨネはいそいそと応接間へ向かった。応接間では、元治と華絵がいて、鬼神を挟んで話をしていた。乾杯に使う盃をお盆に載せながら、由乃は彼らの様子を盗み見た。背の高い鬼神は元治たちに取り囲まれていても、頭ふたつ分くらい抜けている。明るいところで見ると、彼の髪はほんのり茶色で、肌の色素も薄い気がした。優男風なのだけど、切れ長の目の眼光は鋭く、どこか冷たい雰囲気もあった。

「お仕事ご苦労様です。由乃さん」
「佐伯……さん。どうも」

 由乃の視線を遮ったのは、秘書の佐伯。徳佐と美幸が亡くなってから、すぐ元治に寝返り、由乃から全てを奪った男である。

「幸せな華絵さんを見てどう思いますか?」
「よかったと思いますよ。幸せになれるといいですね」
「本当にそう思っているのですか? 本来ならあの場所に立っているのはあなただったはずです。なのに、立場は逆転し落ちぶれて……悔しいなら、悔しいと素直にそう言ったらどうですか?」

 佐伯が挑発する。隣で聞いていたヨネが、怒りのあまり文句を言おうとした。それを由乃は止め、佐伯に向き直った。
「悔しくはありません。さっき言った言葉は本心です。下らない話をしている暇があったら、華絵さんの加勢に行ったらどうですか?」
「加勢? あ……どうしたっていうんだ? いったいなにが?」

 由乃が指差す先を見て、佐伯は青ざめた。そこでは、楽しく談笑していると思っていた三人が険悪になっている。いや、正しくは、鬼神が怒っていて、周りが宥めるという状況だ。