「大通りの事件では、多くの人が恐怖に怯え、怪我をするところだった。どうして、そんな方法をとったの? 私だけを狙えばいいでしょう?」
「は? 関係ないわね。別に誰が巻き込まれても構やしないのよ」

 由乃は目を見開き、華絵を見つめた。
(昔から自分勝手で我儘だったけれど、ここまで残酷な人だったかしら? 私や成子様だけじゃなく、誰が巻き込まれても構わないなんて、悪鬼に憑かれているとしか思えない。真っ当な人間の思考ではないわ)

「……どんな手を使っても、私をこの世から消したいと、そう言うの?」
「ええ」
「なぜ……なぜそこまで憎むの? 響様の件だけじゃないでしょう? 思えば昔から華絵さんは私を嫌っていた。でも、その理由が私にはわからない」

 由乃が言うと、華絵は一瞬真顔になった。そして、低い声で憎々しげに言ったのだ。

「本家に生まれたってだけで、なにもかもを手に入れていたあんたにはわからないでしょうね。分家には、お金も名誉もなにもなかったわ。持ち上げられるのは本家だけなのよ。それに、ね。私の母は……醜女で母と呼ぶのも憚られるくらいの女なのに、美幸おばさまは天上の虹のように美しかった。その美しい美幸おばさまから、暗くて地味なあんたが生まれたなんて許せないでしょ? 美幸おばさまの子どもには、私のほうが相応しい。私のほうが、本家の娘に相応しいって、ずっとそう思っていたわ!」

 長々と語ったあと、華絵は大きく息を吐いた。自分の思いを吐き出して、少し満足げな華絵とは裏腹に、由乃は困惑している。嫌われていた理由が、あまりにも子どもじみていたからだ。