由乃は背後に向かって叫んだ。当時の悲しい想い、悔しい感情、全てを吐き出すように。しかし、帰ってきた言葉は薄情で無情、とても人とは思えないものだった。

「あなたの父、徳佐は人が善いだけで商売や金銭においては疎かった。まあ、いわゆる無能です。だから、密かに権利などを弟の元治様に移し、なにか口実を付けて経営を降りてもらうつもりでした。しかし都合よく、ご夫婦一緒にお亡くなりになるという事故が起き、私は本当に幸運だと思った。あとは華絵様が多聞家に嫁ぎ、会社が大きくなり、私の懐はどんどん潤う……予定だったのに! あなたのような地味でつまらない女に邪魔されるとはね! 恨んでも当然でしょう?」
「お金……お金なの? あなた、お金が欲しくて会社や家の権利を父から奪ったの?」
「そうですけど? 世の中に金より大切なものはないでしょう? 私は金以外に興味はありません」
「……」

 由乃は文句を言いかけて、口を閉じた。佐伯という男には、なにを言っても、無駄だと思ったから。ただ、父やその先祖が守ってきた蜷川家が、金にとり憑かれた男の欲望で滅びるなんて、空しくて悔しくて堪らなかった。
 由乃は、このまま口をつぐんでいようかと思った。以前のように、隙を見せず心を閉じていれば、自分の苦しむ表情を見て、愉悦に浸る華絵や佐伯に一矢報いることが出来る。
 しかし、そうはいかない。暴走事故を起こした犯人は華絵たちだと、なんとか響に知らせたい。そして、きちんと罪を償わせたい。そのために、もう少し話を聞き出そうと思ったのだ。