午後七時。
蜷川本家がにわかに騒がしくなった。普段本家に居着かない元治までもがやってきて、応接間の座卓の配置から、食器の種類にまで細かく指示を出している。華絵は化粧に大層時間をかけており、二時間くらい自室に籠ったままだ。久子の姿は……ない。部屋に引きこもっている女主人は、今夜も出てくる気はないようだ。そんな中、由乃とヨネは細々とした用事を言い渡され、休む間もなく動き回った。
ほどなくして、玄関に一台の馬車が止まった。由乃とヨネは厨房の勝手口から出て、その様子を遠くから見つめていた。着飾った華絵と畏まった元治が、降りてくる人物に深々と頭を下げる。
その人物は深緑色の軍服を着て、漆黒の外套を纏った背の高い男だった。当代の鬼神のひとりが軍人なのは知っていたが、まさかこんなに大きいとは思っていなかった。周りの男性の平均を優に超える身長に、由乃は腰を抜かしそうになった。
(彼が鬼神……でも、転生体は私たちと同じ人間のはず。それなのにこうも外見が違うなんてどういうこと? 鬼神の能力なのかしら? 造られた彫像のように逞しく、立ち姿が洗練されている。ここからは影になって顔はよく見えないけれど、かなりの美男子のようね)
由乃の心の感想は止まらない。
わりと冷静に観察している由乃でそうなのだ。目の前にいる華絵の舞い上がりようは言わずもがな。遠くから見てもわかるくらいのはしゃぎぶりは、関係のない由乃が恥ずかしくなるくらいだった。
「由乃様、私たちも応接間に参りましょう。乾杯の時は、手伝いに来いと言われていますからね」
「ええ、そうね」
蜷川本家がにわかに騒がしくなった。普段本家に居着かない元治までもがやってきて、応接間の座卓の配置から、食器の種類にまで細かく指示を出している。華絵は化粧に大層時間をかけており、二時間くらい自室に籠ったままだ。久子の姿は……ない。部屋に引きこもっている女主人は、今夜も出てくる気はないようだ。そんな中、由乃とヨネは細々とした用事を言い渡され、休む間もなく動き回った。
ほどなくして、玄関に一台の馬車が止まった。由乃とヨネは厨房の勝手口から出て、その様子を遠くから見つめていた。着飾った華絵と畏まった元治が、降りてくる人物に深々と頭を下げる。
その人物は深緑色の軍服を着て、漆黒の外套を纏った背の高い男だった。当代の鬼神のひとりが軍人なのは知っていたが、まさかこんなに大きいとは思っていなかった。周りの男性の平均を優に超える身長に、由乃は腰を抜かしそうになった。
(彼が鬼神……でも、転生体は私たちと同じ人間のはず。それなのにこうも外見が違うなんてどういうこと? 鬼神の能力なのかしら? 造られた彫像のように逞しく、立ち姿が洗練されている。ここからは影になって顔はよく見えないけれど、かなりの美男子のようね)
由乃の心の感想は止まらない。
わりと冷静に観察している由乃でそうなのだ。目の前にいる華絵の舞い上がりようは言わずもがな。遠くから見てもわかるくらいのはしゃぎぶりは、関係のない由乃が恥ずかしくなるくらいだった。
「由乃様、私たちも応接間に参りましょう。乾杯の時は、手伝いに来いと言われていますからね」
「ええ、そうね」