「頼む。じゃが、お前は輔翼の家の者じゃろう? 由乃が輔翼の本家ではないことに反対するかと思うておったが。違うのか?」
「まあ、うちの親とかはいろいろ言うでしょうね。でも輔翼は、鬼神様の加護をもう十分いただきました。富も名声も。だから、由乃さんをお嫁様に選ぶことにより、中佐……鬼神が転生しないというのなら、それでもいいと考えます」
「謙虚でよい考えじゃ。輔翼が皆、そんな考えならば没落はなかったろう。欲を出し、求め過ぎる者から消えていく。それが世の中じゃからの」

 昔、輔翼の家は沢山あった。しかし、鬼神の加護に甘え、多くを望み過ぎたため、天の加護をも失った。悪行に手を染めたり他者を貶めたりする行動は、加護を失う要因となる。誰も見ていなくても天は見ている。黙っていても、罰は必ず下るのだ。

「遠くない未来、輔翼の家はなくなるでしょう。そうなれば、鬼神の転生も終いです。加護はなくなり、個の力が試される社会がやって来る。それに備えて、鬼神に頼らずに生きる方向性を見出さなくてはいけないでしょう?」
「ほう! おちゃらけているかと思えば、案外しっかりしておるのう。これで、猫が苦手でなければ、好感度も上がるものを……」
「ああ、それは無理ですね。猫は怖いので苦手です」

 蜜豆と蘇芳は顔を見合わせた。そりが合わないと思っていたが、しっかりした人生観を持っている蘇芳のことを、蜜豆は見直している。それは蘇芳も同じだった。

「鈍感な主人を持つと、神使も大変じゃ」
「鈍感な上司を持つと、部下も大変ですよ?」

 ふたりは扉の前で、声を殺してクスクス笑った。