鬼神の凄む声に、蘇芳も蜜豆もビクッと肩を震わせた。多聞響という男は、普段あまり表情を変えないため、感情がわかりにくい。しかしだからこそ、本当に腹が立っている時の表情は、まさしく「鬼のように」恐ろしいのだ。蘇芳と蜜豆は、すごすごと部屋を出て行った。
「ああ、ようやく飯が食える……」
静かになった室内で、鬼の表情だった響は仏の顔になり、いただきますと手を合わせた。
一方、執務室から追い出された蘇芳と蜜豆。彼らは扉の前で、立ち尽くしたまま、小声で会話をしている。響に聞かれないためと、喋る猫を誰かに目撃されないためだ。幸い上司官の部屋は別棟になっていて、人の往来がほとんどない。蘇芳が猫と中佐の執務室前に佇んでいるのを、目撃される可能性はほぼないのだが、念のため、だ。
「言ってはいけなかったのですか?」
と、蘇芳が切り出す。
「なんじゃ、わかっておったのか」
「中佐が由乃さんに好意を持っているという件、ですね?」
「そうじゃ。周りは皆気付いておるのじゃが、響様も由乃も鈍感でのう。しかし、そのかけがえのない気持ちを、自分自身で気付いて欲しくてな、黙っておる」
「なるほど。では僕も余計なことは言わないようにします」
蜜豆はこくんと頷いた。
「ああ、ようやく飯が食える……」
静かになった室内で、鬼の表情だった響は仏の顔になり、いただきますと手を合わせた。
一方、執務室から追い出された蘇芳と蜜豆。彼らは扉の前で、立ち尽くしたまま、小声で会話をしている。響に聞かれないためと、喋る猫を誰かに目撃されないためだ。幸い上司官の部屋は別棟になっていて、人の往来がほとんどない。蘇芳が猫と中佐の執務室前に佇んでいるのを、目撃される可能性はほぼないのだが、念のため、だ。
「言ってはいけなかったのですか?」
と、蘇芳が切り出す。
「なんじゃ、わかっておったのか」
「中佐が由乃さんに好意を持っているという件、ですね?」
「そうじゃ。周りは皆気付いておるのじゃが、響様も由乃も鈍感でのう。しかし、そのかけがえのない気持ちを、自分自身で気付いて欲しくてな、黙っておる」
「なるほど。では僕も余計なことは言わないようにします」
蜜豆はこくんと頷いた。