「絶対に許さんからな」
「えっ……駄目ですか? どうしてです?」
「どうしてって、それはもちろん……」
 と言いかけて、響は口籠る。
(蘇芳が由乃を誘ったらどうして駄目なんだ? 俺の苛々が増すからか? そもそも、俺はどうしてこんな想いを抱えているのだ。この想いは、いったいなんだ?)
 自問自答してみても、答えはまったく浮かばない。目の前で蘇芳が返答を待っているが、納得させる正解は導き出せないようだ。

「多聞中佐?」
「ああ、いや……うん……」
「……もしかして、気付いていらっしゃらない? 簡単じゃないですか、それは……うごっ!」

 蘇芳は突然仰け反った。いきなり現れた蜜豆が、蘇芳の後頭部に飛び掛かったからだ。蜜豆は蘇芳を怯ませると、くるんと一回転して応接の机に飛び乗った。

「……っ、いてて! なにが起こって……あー、蜜豆様でしたか。首が捥げるかと思いましたよ」
「捥いでやろうと思うておったに、残念無念」
「えっ……本気だったのですか……」
「お喋りスズメを狩るのは、猫の本能じゃからのう」

 ふたりの舌戦を、響は呆れ返って眺めている。蜜豆が来たということは、なにか急用があったのだろうか? と、思ってみるも、蜜豆は呑気に蘇芳といがみ合っているだけ。急を要する報告はないらしい。眼前で下らないやり取りを繰り返すふたりに、響は冷たく言い放つ。

「おい、お前たち、うるさいぞ。用がないなら出て行け。俺の昼飯を邪魔するな」
「ちょっと待って下さい、中佐。うるさいのは蜜豆様です」
「黙れ小童! 失礼にも程があるぞえ! この愛らしい声のどこがうるさいと言うのじゃ!」
「……二度言わせるのか?」