「仕方ないじゃないですか! 美味しいのですから! いいですねえ、中佐は。こんな美味しいお弁当が毎日食べられて。今日なんて見て下さいよ、母が面倒臭いっていいながら作った雑な握り飯三個ですよ? 可哀想だと思いませんか?」
「いいじゃないか。家族の愛情たっぷりな握り飯なんて。感謝しろ」
「感謝はしていますけど……中佐、お弁当、交換しません? 僕、由乃さんの愛情たっぷり弁当が食べたいなあ」
「断る」

「うわあ、一刀両断ですかー」と天を仰ぎ、蘇芳は諦めて握り飯を頬張った。やっと静かになったと、箸を取り、響はふと思い出した。この間の馬車の暴走の件を蘇芳に探らせていたのだが、その後の進捗状況を聞いていない、と。

「蘇芳。暴走馬車の件、なにか進展はあったか?」
「……っ、んぐっ。え、と、あ! 大通りのやつですね」

 突然の問いに、急いで握り飯を飲み込む蘇芳。彼は大袈裟に胸を叩きながら、一呼吸置くと、響に向き直った。

「残念ながら、ほとんど情報はありません。直前に怪しい男たちがいたという話は聞きましたが、どこの誰かなどは全く……わかったのは、馬が興奮して暴れた理由が、大腿部を切りつけられたということだけです」
「そうか、巧妙だな。大人数が関わっているのかもしれない。計画的に行った犯行の可能性もあるな」
「愉快犯ではないですか? 証拠もほとんどありませんし」
「成子嬢が『馬はふたりに真っ直ぐ向かってきた』と言っている。証拠が残らないのは悪鬼の仕業かもしれないだろう? まあ、なんにせよ、犯人は必ず挙げてやる。由乃に怪我を負わせたのだからな」