十二時、陸軍本部、憲兵中佐執務室。
 響は浅黄色の包みを解き、二段になったお重を取り出す。蓋を開けると、食欲を誘う糠漬けの香りと、鰆の西京焼きの香ばしい香りが漂ってきた。上のお重にはおかず、下のお重には炊き込みご飯が入っている。最初は一段のお弁当だったが、あまりにも美味し過ぎるため、無理を言って二段にしてもらったのだ。最近の響の楽しみは、このお昼の時間だ。至福のひととき、極上の時間、誰にも邪魔されず、由乃の手料理を満喫出来るお昼時は、響にとって憩いの時間であった……のだが。
 最近この時間を狙って、わざわざ訪ねて来る者がいた。

「多聞中佐、遠藤です! 失礼します」

 大声で入って来た蘇芳は、いつものように勝手に応接の椅子に座る。

「……またか」
「またか、なんて、酷い言いようですね。僕がなにをしたっていうんです?」
「どの口が言うか。白飯だけを持参して、俺の弁当のおかずを狙っているくせに。昨日だって、だし巻き卵をとったろう?」

 すると、蘇芳は朗らかに笑った。