激昂するヨネを、由乃は不思議そうに見つめた。本家の娘であった頃から、彼女にはお嫁様になるという願望はない。現人神がどんなものか、会ってみたいという興味はあったけれど、それ以外の感情は皆無である。

「別にいいじゃない。今の性格のままじゃ不安だけれど、鬼神様のお嫁様になれば、彼女も心を据えて頑張るかもしれないわよ?」
「なんと呑気なことを……あの方の性格がそんなに簡単に変わるなんてありえな……あ、由乃様! 華絵様がお嫁様になれば、ここを出て行くのですよね!」
「え? ええ、ゆくゆくはそうなるのではないかしら?」
「あら、もしかしてこれは朗報では……? 久子奥様はほとんど部屋から出て来ませんし、元治様はそもそも、ここに住んでいらっしゃらない。やっかいなのは華絵様だけで……」

 ヨネはこれでもかというくらい目尻を下げた。華絵が蜷川家からいなくなれば、由乃が辛い目に遭うこともなくなる。監視人のような華絵専属の使用人もきっと一緒に出て行くだろう。 
 そうなれば、以前のように穏やかな日々が訪れると考えたのだ。

「由乃様、私も華絵様がお嫁様に選ばれ、人格者に生まれ変われる未来を信じたく思います!」
「まあ、どうしたの? さっきと言っていることが違うけれど? でも、そうね。心を入れ替えてくれると助かるわ」

 由乃は屈託ない笑顔で微笑む。ヨネは大望を抱かず控えめな主人を誇りに思い、由乃が幸せになれる未来の訪れを一心に願った。