「なるほど。よく出来ています。しかも作り方まで丁寧に……さすが鳴様が推すだけのことはありますね。由乃さんはどこかで栄養学を勉強なさったので?」
「いいえ」
「ええっ? で、では独学なのですね。それは凄い。私、少しだけ栄養学をかじっているのですが、この献立はとても調和がとれています」
「本当ですか? ありがとうございます。私ともうひとり、ヨネという者がいるのですが、ふたりで知恵を出し合って考えたのです。専門家に褒められた、と報告しておきますね。きっと喜ぶはずです」

 そう言うと、臼井は「いやいや、そんな」と目の前で両手を振って謙遜する。そのお茶目な仕草に、由乃はほっこりとした。

「ではこれを各部門長に渡しておきます。それで、糠漬けもお持ちいただいたのですよね」
「あ、そうだ、忘れるところでした。これなのですが」

 由乃は隣に置いた風呂敷包みを机の上に乗せ、急いで包みを解く。糠漬けは、洗って切ってから重箱に詰めてきたので、いつでも食べられる状態になっている。お弁当に詰めても問題ないか、臼井に味見をしてもらうためだ。鳴には絶対に入れるように言われたが、やはり、現場の意見を聞かなくてはならない、と由乃は考えていた。

「どうぞ。ひとつ召し上がって下さい。その上で、臼井さんの率直な感想をお聞かせ下さい」
「わかりました。では、遠慮なく」
 臼井は適当に一切れ摘まみ、口に放り込む。ゴリゴリボリボリと小気味よい音を響かせるうちに彼の表情はみるみる変わった。そして、ごくんと飲み込むと、多幸感溢れる表情になっていた。