「新聞によると、昨日の火災で、自宅を失った人が結構いるらしいの。だからその人たちのために、仮設住宅を作ろうと思って。もちろん食事も配給するわ。政府の対策を待っていたら、みんな寒さと飢えで疲労してしまうから」
「まあ! とてもよいお考えだと思います。多聞家は慈善事業もしていたのですか?」
「ええ、そう。昔からね。私たちは鬼神様のご加護で裕福な生活を約束されている。でもね、それに胡坐をかいてはいけないことも知っているの。そうやって存続してきたのよ」
「そうでしたか。あ、それで、私たちはなにをすればよろしいのですか?」

 なにか頼みごとがあるらしいが、由乃やヨネに出来ることなど限られている。食器を整えていたヨネも、不安そうに由乃を見返した。仮設住宅の建設の手伝いなんて無理だし、出来るのは、食事の配給を手伝ったりするくらいだ。

「食事の配給を、お弁当にして個別に配れるようにする計画なの」
「お弁当、ですか? 炊き出しではなくて?」
「ええ。実は鉄道普及に伴って、駅弁事業に参入するつもりで、お弁当製造工場を作ったの。本格的な稼働はしてなかったのだけど、せっかくだからその施設を使えばいいじゃない、って。あ、それでね、頼みたいのはお弁当の献立よ」
「献立?」

 由乃はヨネと目を合わせた。

「ええ。材料も設備も人手もあるけど、肝心な献立を考える人がいなくって。毎食同じものだと飽きるでしょう? だから、お願い出来ない?」
「はあ……それはたぶん可能ですが……でも、私たちの考えるものなんて、ただの田舎料理ですけど……ねえ、ヨネさん」
「そうですねえ。帝都の方々のお口に合うとは到底思えません」
「いいえ。大丈夫よ。由乃の料理が美味しいのは知っているし、その師匠のヨネなら間違いはないでしょう。きっとみんな気に入るわ」