次の日の朝刊には、化学薬品工場の火災が一面に載っていた。原因は調査中だが、放火の可能性もあり、引き続き捜査を継続するらしい。しかし、あれだけの大火災にも拘わらず死人はゼロ。それは憲兵隊の誘導や様々な人々の働きによってもたらされた奇跡だと、紙面で大々的に取り上げられていた。昨夜、響はなにも言わなかったが、これには鬼神の力が多く関係しているのでは、と由乃は考えた。響は悪鬼を退治する際、炎を操る。自身が炎を操るのなら、火傷をすることはないのではないか。傷の手当てをしている時、爆風による傷しかなかったのはそのためだ。つまり、辺りに延焼しないようにと、鬼神の力を使って出来る限り炎を押さえていたのでは……。

「……で、由乃たちも手伝って欲しいの」
「えっ?」

 ぼーっと考え事をしていた由乃は、お茶を注ぐ手をはたと止めた。見ると、鳴が新聞を手に、由乃に問いかけている。朝、家族の誰よりも早く起床する鳴は、食後に朝刊に目を通す習慣がある。由乃は、すぐに理解して切り返した。

「ええと……昨夜の火災の件、ですね」
「そう。あら? 肝心なところを聞いていなかったのね。昨日遅かったから寝不足なのかしら?」
「申し訳ございま……え? ど、どうして知っているのですか……」
「ふふふ。まあ、それはさておき」

 鳴は意味深に微笑みながら続けて言った。