「そうですか。では、私もいつもと変わらず接します。方針が変わったらまた教えて下さい。それで……そろそろ、帰っていただけますか? あと二時間くらいで起きなければならないので、少し眠りたいのですが」
「おお! そうかそうか。それは悪かったの。我と白玉は由乃の部屋に行くとしよう」

 ……本当に悪かったと思っているのだろうか? 飄々として去っていく蜜豆と白玉を見て、厳島はため息を吐いた。神使の主人に対する忠誠心は強く、蜜豆と白玉も例外ではない。ただ、他の鬼神の神使と違い、蜜豆と白玉は大昔、鬼神多聞に調伏された世にも有名な大悪鬼、夜叉と羅刹だという。鬼神の強さに恐れ入った彼らは、敗北したその場で神使になることを決めたのだとか。そんな悪名高きふたりが、いまや、由乃という人間の女性に気を許し、主人の連れ合いに望んでいるなんて。いったい誰が想像するだろう。
(おっと、そんなこと考えている場合ではない。早く寝て、明日に備えなければ)
 厳島は寝具に入ると、三秒で眠りに落ちた。多聞家の優秀な家令は、いついかなる時も自身の生活様式を崩さない。それが身上であった。