「ああ。芳しく甘い花の香りだ。前に一度、響様にも言ったことがある。その時は『どんな花だ』と聞かれたな」
「ふうむ。植物を蘇らせたこともそうじゃが、やはり由乃は普通の人間とどこかが違う……まあ、なにが違うかはわからんのじゃが」
「響様もそう感じてはいるようだった。出自に関係があるのかもな……そう言えば、蜷川家はあのまま没落したのか?」

 蜜豆は頷き、続けて言った。

「先ほどヨネと由乃の話を(こっそり)聞いていたのだが、もうあの家には当主の嫁しか残っていないそうじゃ。没落し、一家離散というところか。まあその辺は、園山成子の調査を待ったほうがよさそうじゃ」
「思わぬ事実が浮かぶかもしれないからな。で、今後の方針は?」
「うむ。出来るだけふたりの時間を作り、常にいい雰囲気を作り出す、これじゃな」

 胸を張り、どうだと言わんばかりの蜜豆。しかし、それに厳島がケチをつける。

「……大丈夫ですか? あのおふたりは、相当鈍いみたいですが」
「う、む……しかしな、他人がどうこう言うよりも、こういうのは自分で気付くのが重要なのじゃ! そのほうが、より『どらまちっく』だからの」

 蜜豆は得意の英語を繰り出した。屋敷のどの部屋にでも出入り可能な蜜豆は、鳴の部屋で見付けた英語の辞書にとても興味を持ち、気に入った言葉を好んで使用する。そして、知らない言葉を言われたみんなが、ポカンとするのが楽しいようだ。ただ、仕事柄多少英語が出来る厳島は、ポカンとしたことはない。