「たいしたことはない」
「とりあえず、先に傷の手当てをいたしましょう。さあ、こちらへ」

 由乃は食堂へと響を促すと、近くの椅子に座らせる。そして、厨房に置かれていた救急箱を取ってくると、中に消毒液があるのを確認して手当てを開始した。無残に破れたシャツの袖をゆっくりと捲る。すると、なにか細かいものが激しく当たったような無数の傷が現れた。大方は傷も浅く心配ないようなものだったが、中には深く、未だ血が止まらない傷もあり、由乃は息を詰めた。
 滅菌ガーゼに消毒液を染みこませ、浅い傷から始め、次に深い傷に当てる。我慢強いのか、痛みを感じにくいのか、響は手当ての間、ひとことも呻き声を上げなかった。

「これは、硝子の破片の傷でしょうか?」
「ああ。倉庫の薬品に引火したようで、その爆風でな」
「そうですか……破片が入り込んでいないか、ちゃんと確認しないといけませんね」

 冷静に言ったが、内心で由乃は肝を冷やしていた。命を落とす可能性があったのだ。おそらく、怪我人も多数出たことだろう。それを思うと、由乃の手は震えた。

「大丈夫か? 顔色がよくないぞ。厳島と交代したほうが……」
「いいえ、私は平気です。響様こそ、怪我の傷は痛みませんか?」
「こんなもの怪我のうちに入らん」
「……あら、そうですか?」

 由乃はイラッとした。こっちは胸が破裂しそうなほど心配しているのに、当の本人は飄々としている。それでつい、ガーゼを強く押し当ててしまった。

「いてっ!」
「……ぷっ……あ、申し訳ありません」
「わざと、だな」
「はい」