ヨネは深々と腰を折る。娘と孫を帝都に連れて来ている彼女は、通いでの勤務を希望した。家政婦組合に相談したところ、安い長屋を用意してくれたので、そこに三人で住むことにしたそうだ。多聞家に住み込みで働いてもいいと、響は提案したが、孫がまだ赤子で夜泣きが酷いので、迷惑になるからと辞退したのである。

「よろしく頼む」

 響の言葉にヨネが頭を下げると、奏や鳴から「よろしくね」と声が掛けられる。ふたりとも、ヨネが気に入ったようだ。

「由乃、今日の夕餉はヨネとふたりで用意したのか?」
「はい、響様。ヨネさんと一緒でしたので、いつもの半分の時間でご用意出来ましたし、小鉢も二種類増やせました。どうですか、少し豪華でしょう?」
「ああ。豪華で旨そうだ。だが、今までの由乃の料理も負けず劣らず豪華だったぞ?」
「え……あ、ありがとうございます」

 由乃の頬がほんのりと色づいた。最近の響は、感謝や好意を恥ずかしいほど素直に言葉にする。出会った頃は感情を顔に出す感じではなかった。不器用な人なのだろうかと考えていた由乃は、想像を超えた彼の変貌に、気持ちが振り回されていた。
 その時、突然来客を告げるベルの音が鳴る。現在午後七時。他人の家を訪問するには少し時間が遅い。厳島は怪訝な顔をしながら、いそいそと玄関へと向かった。

「誰だ、こんな時間に」

 響は不満を顔に出す。一番楽しみにしている食事を邪魔されて、機嫌が悪くなったようだ。
 しかし、厳島が連れてきた来客を見ると途端に顔色を変えた。