「厳島さん、面接の方をお連れしました!」

 元気よくドアをノックすると「どうぞ」という厳島の声がする。由乃はヨネを振り返り微笑むと、彼女を部屋に促した。高級ビロードの長椅子には厳島が座っており、その隣には蜜豆が寝そべっている。ヨネは静かに彼らの前に向かうと頭を下げた。

「ん? おやおや? お主、えびす顔の老婆ではないか」

 蜜豆がヨネを見て目を丸くする。

「これは神使様。しばらく振りでございます」
「顔見知りですか? 蜜豆様」
「うむ。この者は由乃と共に、蜷川家で働いていた使用人じゃ。糠漬けを由乃に教えた、いわば師匠にあたると聞いておるぞえ」

 蜜豆は体を起こし、尻尾をゆらゆらと揺らしながら厳島に説明をする。厳島はヨネに椅子を勧め、由乃には蜜豆の側に座るように指示をした。そして、話を切り出す。

「ええと、先に家政婦組合から届いている紹介状によると、お名前は「板倉ヨネ」さん。六十二歳。使用人としての勤務歴は三十年。家族は娘と孫のふたり……ですね?」
「はい。そうでございます」
「あの、厳島さん。ヨネさんは真面目でよく気の付く優秀な人です。多聞家の即戦力になること間違いなし、だと思います!」
「なるほど。由乃さんのお墨付きですね。蜜豆様はいかがですか?」

 由乃の膝上に移動し、成り行きを見つめていた蜜豆は、ツンと鼻先を上げて言った。

「問題なかろうよ。由乃の信頼する者ならば、響様も皆も気に入るであろう」
「そうですか。いつもそのように物分かりがよいと助かるのですがねえ」
「……にゃんじゃと?」

 髭をピンと立て、軽く臨戦態勢を取った蜜豆を無視し、厳島はヨネに向き直った。そして、立ち上がると手を差し出した。