(響様や多聞家の方々が、いろいろ優しくして下さるのは、愛情などではなく同情だというのに、どうして世間は根も葉もない噂を広めるのか! 私などと噂になって響様に申し訳ないわ)

「馬鹿げた話? 由乃さんは本当にそう思っているのですか」
「はい! ありえない話です」

 更に語気を強めた由乃に、厳島はそれ以上なにも言わなかった。傍から見れば、響の気持ちなど一目瞭然。だがしかし、当事者でもないのに、口を挟もうとは思わなかったのだ。それは蜜豆や白玉、鳴と奏も同じだった。

「まあ、それはさておき。本日は新しい使用人の面接があるのは覚えていますよね」
「はい、もちろん」

 この頃、多聞家が幽霊屋敷だという噂は人々の記憶から消えつつあった。それは、新たな噂「中佐の恋の話」が原因である。だからだろうか、条件のよい多聞家の求人に、ポツリポツリと職を求めて人が来るようになっていた。

「面接に由乃さんも立ち会って下さい」
「えっ? 私も?」

 使用人である私が面接に? と、由乃は首を傾げた。いつもは、家令である厳島がひとりで対応している。それなのに、どうして今日だけ? と不思議に感じたのだ。

「いたずらをする蜜豆様を押さえておいていただきたいのです。面接時、少しでも相手が気に入らないと、すぐ怪奇現象を起こして脅かすのです。せっかく幽霊屋敷という噂が薄れつつあるのに、これではまた元の木阿弥……」
「あら、蜜豆様ったら……本当にお茶目でいらっしゃるわ」
「なにを呑気な。私は使用人を増やし、早く由乃さんの負担を減らせと響様から再三仰せつかっているのです」
「あの、私なら平気ですが……」