「腹が空いただろう? ほら、朝餉だ」
「あ……ま、まあ! ありがとうございます。とても美味しそう」

 歩けないわけではない。松葉杖を付き、ゆっくり食堂に行くのは可能だ。しかし、由乃はお礼だけを言った。「申し訳ございません」という言葉が口から出そうになったが、楽しそうな響の表情を、謝ることによって台無しにしたくなかったのだ。

「俺たちもやれば出来るだろう? 由乃の味には及ばないが、そこそこ旨いと思うぞ」

 響は角盆を由乃の膝に乗せた。角盆の上には、拳大のおにぎりと、具沢山のお味噌汁、豆腐とほうれん草の和え物がある。そして小皿には、由乃の糠漬けも添えられていた。

「さあ、食べてみてくれ。味噌汁を作ったのは奏、ほうれん草の和え物は鳴姉さん。厳島は豆腐を切っただけだが……」
「ふふっ。その様子を見たかったです」
「見物だったぞ。あ、おにぎりは俺が握ったのだ! よく出来ているだろう?」
「えっ! 響様が……」

 なるほど、大きな手で握ったから巨大なおにぎりに……想像すると、おかしくなって自然と顔が綻んだ。いったいどんな顔で握ったのか。考えるだけで噴き出しそうな由乃であった。

「いただきます」

 手を合わせ、朝餉を口に運ぶ。響のおにぎりは少し固く、塩気が強い。味噌汁の具材の大きさはまちまちで、ほうれん草の和え物は所々ちゃんと切れていない。しかし、由乃はその朝餉が、至高の物のように思えてならなかった。みんなが、自分のために悪戦苦闘しながら作ってくれた食事、それがなにより嬉しかった。

「美味しい、です……」
「そうか、よかった! よ、由乃? どうしたんだ? なぜ泣く? どこか痛むのか?」
「いえ。美味しくて、つい涙が……」

 すると響が由乃の側に腰掛けた。